キセノンガンマ線検出器開発グループ
1. キセノン (Xe) ガス検出器(研究背景)
私たちの研究室では放射線検出器について研究しています。そのなかでも私たちはキセノンガスを用いた気体検出器について研究しています。気体検出器とは簡単にいってしまえば高圧容器に気体を詰めて、そこに飛来した放射線が気体と相互作用することによって生じる電子や光を収集、検知することで放射線のエネルギーとその強度を調べるものです。私たちは気体として原子番号が大きく(Z=54)、気体として安定した希ガスでもあるキセノンを用いています。電子を収集するものを電離箱と呼び、光を検知するものをシンチレーション検出器と呼びます。
なぜキセノンガスを用いた電離箱やシンチレーション検出器を研究するのでしょうか? その理由は主に2つあります。
- 気体を媒体とした検出器は冷却する必要がなく、放射線損傷に強いため宇宙空間でのメンテナンスを行う必要がありません。また、固体・液体と比べると低密度な気体を用いることのデメリットである検出効率は高圧キセノンガスを使うことにより比較的高く保つことができ、またガスであるため有感体積は大きくとることができます。これらの特徴を生かせば、従来のγ線カメラにない特徴をもったMeV領域を対象としたTime Projection Chamber(以後TPC)を構成することが可能であり、TPCの構成のためにはシンチレーション光と電離電子双方の情報を同時に取得する必要があります。
- 気体中で放射線がどのようなプロセスでエネルギーを失っていくのか?電場を印加したとき電子は気体中においてどのような速度で、どのように収集されていくか?というような問題への理論的なアプローチは十分ではなく、解明されていないことが多くあります。特に高圧の気体については測定データ自体が極めて少なく科学的な意義が大きいと言えます。
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2. High-Pressure Xe Time Projection Chamber (HPXeTPC)の開発
HPXe-TPCは高圧キセノンガスの利点を複合的に応用することで、従来のコンプトンカメラでは3回のγ線入射が必要なところを1回のみの入射により到来方向の特定を行う全く新しいタイプのγ線検出器です。
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HPXe-TPCの模式図 |
ポイントとなるのは、コンプトン散乱により叩き出される反跳電子の方向ベクトルを計測するということです。左図下部の短冊状に分割されたグリッド電極・収集電極により電離電子分布の2D情報が得られ、シンチレーション光をトリガーとして時間の測定をすることで3D情報を取得します。この情報を用いて反跳電子の方向ベクトルの再構築を行います。
3. HPXeTPC検出器のシミュレーション
HPXe-TPCの角度分解能を見積もるために私たちはGeant4というC++で記述された、粒子と物質との相互作用を追うことのできるシミュレータを用いて計算を行っています。
角度分解能を見積もることで私たちが使おうとしている方法に対しHPXe-TPCが十分な能力をはっきできるかどうかを知ることが出来ます。
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Geant4を用いて1MeV電子を20発入射させた図
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HPXe-TPCの角度分解能を見積もるために私たちはGeant4というC++で記述された、粒子と物質との相互作用を追うことのできるシミュレータを用いて計算を行っています。
角度分解能を見積もることで私たちが使おうとしている方法に対しHPXe-TPCが十分な能力をはっきできるかどうかを知ることが出来ます。
4. シンチレーション検出器
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シンチレーション検出器 |
私たちの研究室で作成したシンチレーション検出器はシンチレーション光を検出できるだけでなく、同時に電離電子も収集することが出来ます。それによって発光強度と電離電子数お互いを比較することができ、気体中でどのようにエネルギーが分配されたかを調べることが出来ます。
気体圧力の増加に伴い、そのエネルギー分配の比率が変わっていく結果が得られています。現在は拡散係数計測実験との兼ね合いから、キセノンガスに少量の他の気体(水素やメタンなど)を混ぜることによってその発光強度がどのように変化していくかを調べています。
5. Diffusion Chamber
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Diffusion Chamber内部
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Narrow strip electrodes
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電子が電場によって掃引されるとき、ある距離進む間にどの程度拡散するのか?それを知るためにDiffusion Chamberは製作されました。Chamber上部に取り付けられたphoto cathode にUVを照射することで電子群を発生させNarrow strip electrodesに掃引します。電極がストリップ状に分かれているためどこにどれだけの電子が収集されたかがわかります。それによって拡散を調べます。
早稲田大学理工学術院理工学研究所
長谷部研究室