高エネルギー宇宙粒子グループ


高エネルギー宇宙粒子線


 私たちの研究グループは、宇宙空間を高エネルギーで飛び交う放射線粒子を観測することによって、私達の銀河空間で起こる高エネルギー現象、太陽系空間での高エネルギー現象、そして地球磁気圏内での高エネルギー現象について研究しています。このような粒子は、宇宙線(cosmic ray)もしくは宇宙放射線(cosmic radiation)と呼ばれ、105eV (エレクトロンボルト、1019eV は約1J)から1020eVまでの大変幅広いエネルギー領域で観測がされています。観測するエネルギー領域によって、前に述べたような観測対象となる宇宙空間スケールや観測方法が違ってきます。私達のグループでは、主に108eV以下の地球磁場捕捉粒子(trapped particle)、太陽宇宙線(solar cosmic ray)もしくは太陽エネルギー粒子(solar energetic particle, SEP)、108eV以上の銀河宇宙線(galactic cosmic ray)の観測的研究を行っています。これらの粒子はエネルギーやその発生起源は違いますが、そこで起こる現象はお互いに密接に関連しており、それぞれの現象を有機的に捉えることにより、宇宙線を通して地球近傍から太陽圏、そして銀河系の描像を解明しようとしています。


 高エネルギーの宇宙放射線を通して、銀河の高エネルギー現象、太陽圏の高エネルギー現象、地球近傍の放射線環境(宇宙天気)の研究を行っています。



銀河宇宙線 (Galactic Cosmic Rays) の研究

銀河宇宙線全粒子のエネルギースペクトル


 1912年にオーストリアのVictor Hessによって銀河宇宙線が発見されて以来、すでに100年が経過しようとしています。銀河宇宙線がどこで生まれ(起源)、どのようにエネルギーを受け(加速)、どのようにして地球までやってくるのか(伝播)、まだ完全に明らかになっていません。しかし、その高いエネルギーから、銀河宇宙線の起源や加速は、超新星爆発のような銀河系内の高エネルギー天体現象に関係しているだろうと考えられています。

研究の目的

銀河宇宙線の元素存在比と太陽系元素存在比の比較
 私達の研究グループでは、このうち銀河宇宙線の起源と加速の初期段階での機構に注目して研究を行っています。銀河宇宙線中の元素組成比は、太陽系での組成比と比較して、重い元素(とくに鉄核より重い元素=超重核)成分の割合が大きいという特徴があります。私達はこの特徴に注目し、銀河宇宙線中の超重核の観測から、その起源と初期加速機構の解明を目指しています。

観測計画

宇宙ステーション(青)および南極気球(緑)による超重核観測量の予想。赤印は過去の実験(HEAO-3)で得られた超重核
超重核の到来頻度は極めて小さく、また地球大気によって遮蔽されてしまうため、気球や人工衛星、宇宙ステーションなどを利用し、高高度での長時間大面積の観測が必要となります。私達は、JAXAの南半球や南極での長時間気球を利用した観測を計画しています。さらに将来的には、宇宙空間での大規模観測も計画しています。この観測計画は、早稲田大学を中心とした共同研究グループによって進められています。

検出器の開発

高速解析装置の一部
観測に向けて、放射線総合医学研究所にある重イオン加速器HIMACの重イオンビームを利用し、超重核検出器の開発を進めています。特に、超重核観測に有利な固体飛跡検出器の開発とその高速解析装置の開発に重点をおいています。

放医研でのビーム実験の様子

地球磁場捕捉粒子 (Trapped particles) の研究


 近年の人類の宇宙利用や宇宙への進出に伴って、地球近傍での宇宙環境の理解が重要になってきています。赤道上空を中心に地球をドーナッツ状に取り巻く放射線帯が-バンアレン帯-は地球磁場に捉えられえた数100keV〜数100MeVの電子や陽子で構成されています。この放射線帯は太陽活動や磁気嵐によって大きく変動し、人工衛星の運用や宇宙飛行士の生命に大きな影響を与えてしまいます。そのため、地球近傍の宇宙環境変動の予測-宇宙天気-が大変重要になってきています。しかし、その変化の機構とは詳しく分かっておらず、まだまだ様々な角度から、特に尾太陽と地球の関係に注目した研究が必要とされています。

USERS衛星の想像図SERVIS-1衛星の想像図
私たちは、無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)との共同研究により、USERS衛星およびSERVIS-1衛星に搭載された粒子検出器データを解析し、宇宙天気予報の確立の基礎となる放射線帯の変動機構の研究を行っています。


SERVIS-1衛星によって観測された1000km上空での地球磁場捕捉電子の強度分布

太陽宇宙線 (Solar Cosmic Rays) の研究

 太陽フレアやそれに伴うコロナ物質放出(Coronal Mass Ejection, CME)などにより、数MeVから時には数GeVにおよぶ粒子の放出が起こります。このような粒子は太陽エネルギー粒子(SEP)とも呼ばれています。放出された粒子は地球に到達して磁気嵐を起こしたりします。また、太陽風と呼ばれる太陽からのプラズマの風は、惑星間空間や太陽系の縁で衝撃波を作り、やはり粒子を加速させます。このような現象で放出される粒子の多くは陽子ですが、その特徴は陽子ではなく、重イオン(ヘリウム原子核以上の原子核成分)に大きく現れます。

つばさ衛星の想像図
私たちは、JAXAとの共同研究により、つばさ衛星に搭載されたHIT(Heavy Ion Telescope)検出器で観測された重イオンデータを解析し、太陽面爆発現象や惑星間衝撃波による粒子加速を重イオン観測の面から解明しようと試みています。また、バンアレン帯の中の重イオンの役割にも注目して研究を行っています。

HIT検出器で観測された地球磁気圏内の重イオンHIT検出器で観測されたバンアレン帯外帯のヘリウム同位体強度の時間変化
HOME

早稲田大学理工学術院理工学研究所
長谷部研究室